俺たちは使い捨て 原発労働者が実状を語る
遠藤俊一さん(仮名)、南相馬市在住、41歳。福島第一原発事故の1年前まで、合計で約15年間、福島を中心に、全国の原発作業に従事していた元原発労働者。
遠藤さんは、原発内の過酷な作業と被ばく労働の実態、下請けいじめと労災隠しが常態化する現状、そして今回の事故原因にもかかわる欠陥隠蔽と報告書改竄という事実を、赤裸々に語ってくれた。
遠藤さんの話からは、「俺たちは使い捨てにされている」という深い憤りと、同じ働く仲間を思う気持ちが伝わってくる。
インタビューの後半には、津波と放射能の被害で苦しむ南相馬市の復興への思いにも話は及んだ。
4時間近くのインタビューを、できるだけ再現するように努めた。やや長いが、是非、読んでいただきたい。
なお、東京電力による圧力などを鑑み、仮名を使用し、素顔の撮影は避けた。
〔インタビューは、9月上旬 南相馬市内〕
【Ⅰ】 被ばく労働の実態
【Ⅱ】 下請けいじめと労災隠し
【Ⅲ】 欠陥の隠蔽と原子炉の破損
【Ⅳ】 東電の腐敗と恐怖支配
【Ⅴ】 南相馬の復興のために
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【Ⅰ】 被ばく労働の実態
「線量部隊」
――原発ではどういう仕事を?
仕事は、だいたい3種類やった。検査業務、それから、機械のメンテナンス、あとは計装配管(原子炉内の温度や圧力の測定や制御にかんする配管)。
検査業務は、非破壊検査というヤツ。レントゲンや超音波で、配管の溶接部の亀裂を見つける検査。定期検査のときの仕事で、放射線量の高い場所ばっかりだった。
――線量の高いところとは?
原発の中でも、線量の高い場所、低い場所といろいろある。
原子炉から、直接出ている配管がある。再循環系とか、緊急冷却系とか。その配管と原子炉の付け根。ここは線量が高い。
原子炉の本体は、あの形でつくって、持ってくる。そして、それから先の配管は、現場でつける。その配管の根元は、一応、遮蔽体があって、被せてあるから、ある程度、線量は落ちるけど、どうしても検査するときは遮蔽体を開けなければならない。そこ(遮蔽体)を開けると、原子炉の鉄板が、直接見える状態で、結構、線量が高い。
それと、復水器系。原子炉で湧かした蒸気でタービンを回して、それを復水器(下図参照)に入れ、今度は、冷却水という海水を汲み上げて、冷やす装置がある。その復水器というのも、やっぱり原子炉系の蒸気が通っているので、すごい線量の高いところ。
俺たち作業員の間では、高線量地域に行く人間のことを、「線量部隊」といっていた。
メーカーにも、原子炉メーカーとかタービンメーカーとかいろいろあるけど、シュラウド(下図参照)とか、本当の中枢の原子炉メーカーはIHI(石川島播磨重工)。IHIの仕事をする人間は、結構線量の高いところに行く。
検査業務も、そう。一日の線量当量が0・8ミリシーベルト。一番高いレベルのアラームメーターを持って作業に行くけど、15秒で終わったことがある。
その場所の「雰囲気線量」(空間線量)を放射線管理員がまず行って測る。そうすると時間的に何秒いられるかが計算できる。0・8ミリシーベルトだと何秒間。0・8ミリシーベルトを超しちゃうと法令違反になってしまうんで、それを超さないレベルで、15秒で終わりということもある。1日の仕事がね。
(シュラウドの位置と系統略図。
シュラウドは、原子炉圧力容器の中にあり、内部には、燃料集合体や制御棒がある)
――15秒で何ができる?
PT検査(染色浸透探傷検査)というのがある。
溶接してある場所に、浸透液という赤い液体を塗る。傷があったら、10分ぐらいで傷の中に液が浸透していく。それで、余計なものを洗浄液で拭き取って、その後に現像液という白い粉のスプレーを吹きかけると、傷の中に染み込んだ浸透液が粉に染み出してきて、傷があると赤く見える。そういう検査がある。
赤い液を塗る人、傷以外の所を拭き取る人、現像液をかける人、判定をする人、写真を撮る人。これらを全部、決めておく。
線量の低い場所に待機していて、そこから線量の高い現場にサッと行って、サッと帰る。15秒だと、そんな感じ。
――走って行く?
走って行けるような場所ではない。ものすごい狭い場所。いろんな突起物があっちこっちに出ているし、配管も走っているし、潜り込んで行くという感じ。だから、行き帰りの時間も計算すると、現場に行ってできる作業は、ウェスでスーッと拭いて終わりみたいな。本当に3、4秒かな。
遠くからストップウォッチを持っていて、「時間だよ」と叫ぶ。そうすると、自分の与えられた仕事が途中だろうが何であろうが出てきて、「ここまでしかできなかった」と。そしてまた違う人が行く。で1回行った人はそれで終わり。
――人数がたくさんいる?
そう。例えば、高線量の所に行く場合には、一箇所の検査をやるのに、10人なり、15人なりが必要になる。
線量のないところでやれば、判定まで一人で30分あればできる。
ところが、高線量の作業では、1日の日当分の人件費をみんなに出さないといけない。たとえ何秒かしか働いてなくても。それが15人とかになると、一箇所の検査費用というのがものすごい莫大な金額になる。
(1977年、敦賀原発の定期点検の作業。樋口健二著『環境破壊の衝撃 1966-2007』)
原子炉の雑巾がけ
シュラウドの交換という作業がある。
シュラウドを交換するには、まず古いシュラウドを出さないといけない。古いシュラウドは、相当の線量がある。いくら水を抜いて除染をしたといっても。
その除染をやるのは、初めて見る人ばっかり。ヤクザに連れてこられたとか、そういう人たち。金がいいからというのもいるだろうし。そういう人が、結局、高濃度の汚染状態のシュラウドに入って、まず除染作業をする。
それである程度、線量を下げて、それでもまだ高いんだけど、それから技術者が入っていく。
――遠藤さんは、技術者の方になる?
そう。俺らの前の人たちがいるわけ。
福井でも、たぶん除染に連れて行かれて、病気になったという人が大阪にたくさんいるらしいけど。そういう人たちが福島にもいた。
要は掃除機だ。ウェスを持って、洗浄液を持って。
まずは放射線管理員というのが測りに行くけど。「そこら辺、放射線高いから、あの辺を重点的に拭いて」とか。
要は雑巾がけ。非常に原始的な作業。手作業に頼らないとできない。シュラウドは、原子炉の中心部分で巨大な構造物。それを機械で洗おうといったって無理。
もっとも、ある程度、時代が経っていると、化学除染といって、薬品で除染するという方法が出てきた。その化学除染というのが出てきてからは、放射線はかなり低くはなった。被ばくする人間も減った。
定期検査だとなると、まず、化学除染が入る。全体的な放射線を落として、それから一般の作業員が入っていって、工事に入っている。
化学除染は、俺も良くわかんないけど、水が通っている配管の中に、化学薬品を通して、放射性物質を流し出して、回収するというのが化学除染だと思う。実際にやっているところは見たことがない。
――被ばくは?
シュラウドに限って言えば、ものすごい線量を浴びてしまうんで、そんなに長い時間はいられない。
年間線量当量というのも決まっていて、年間50ミリ、5年間で100ミリ。たぶんあまり長くない時間で50ミリ近くは行くと思う。
ある程度、そこに近づいてくると、危ないから入るなって言われる。それこそ法律違反になってしまうんで。
――作業の環境は?
すごい作業はしづらい。フル装備なんで。合羽を着て、全面マスクで、時期によると、空調の点検まで入っちゃうと、空調が利かなくてすごく暑くなる。
夏場は必ず何人か救急車で運ばれるね。救急車の音が聞こえると、「あー誰か倒れたな」って、それが驚くことではない。
冬場でも、例えば一番暑かったのはケーブル処理室というのがあって、所内に引き込んでいるケーブルと中操(中央操作室)を結ぶ―そこにすべてのケーブルが中操に集まっているけど―その真下にケーブルを処理する部屋がある。そこに電気が通っていると、発熱するわけ。真冬、外がマイナスという気温でも、中が40何度ある。これは体調を崩す。
楽な現場ではない。
逆に寒いぐらいのときもある。運転が止まっているときは、電気がほとんど通っていないのですごく寒い。
でも、ああいう場所なので、寒いからって、自分のジャンバーをもっていって着るとかできない。寒いときには、みんなガタガタ震えながら。暑いときにはみんな汗だくになりながら。
原子炉水に潜る外国人作業員
――外国人がいるという話が・・・
いるね。それは日本の法律より基準が高いから。日本人ではできない仕事を、外国人に任せる。
ダイバーもいた。ダイバーというのは原子炉水に潜る。原子炉には、水が張ってある。あの中に潜っていく。
その人がその後どうなったかまでは知らないけど、俺的には自殺行為だね。
――何のために潜る?
原子炉の中にもたくさんパイプが出ている。また、シュラウドのひび割れのも問題もある。その検査や修理なんだけど、燃料を全部抜いて、水も全部抜いて、除染をしてからとなったら、莫大な金額がかかる。
だから、潜ってくれる人がいて、例えば、「ここの面が溶接面だからずっと潜って下まで見てくれ」ということをやってくれたら、安くつく。日当を例えば50万円を払っても、その方が安い。
おれは頼まれてもいやだね。日本人はやらないというか、法律上やれない。だから、どこの原発でも、定期的にそういう外国人が入っているはず。
――外国人とは?
アメリカ人。ただ黒人であるとは限らない。黒人でも白人でも。
たんぶん、原子炉メーカーのGEの下請けとか、そういう人だと思う。
技術は必要ないね。潜水の技術ぐらい。
放射線の知識もそんなにいらない。放射線の知識をいくら持っていても、浴びる線量は変わらないんで。
まあ俺たちがやっていたことは、大体、毎日のルーティンだから、それほど危ないなあということはない。
だけど、他人がやっていることで、自分が想像もつかないことをやっているとなると、「うわー、あの人たち大丈夫なのかなあ」と思う。
(アメリカには、原発のダイバー潜水を専門に行っている企業がある)
「気をつけなさい」と言われても
――被ばく量はどういう風に計算しているのか?
基本的にガラスバッジ(特殊なガラス素材を使用した線量計。個人が受けた積算の放射線量を計る)で、1カ月つけて。
あとはアラームメーター。1日の線量当量を設定しておいて、それを超えるとアラームが鳴る。あと9時間半を超えるとアラームが鳴る。
そのアラームメーターをもって、それもアルファ線用、ベータ線用、ガンマ線用と分かれるんだけど、それを区域によって、わけて持っていく。それで自分でも液晶で見られるので、たまに見ながら。
――1カ月では?1年では?
いやー、放射線管理手帳を見ないとねえ。会社にいる間は預けっぱなし。まず見ることはない。まあ見せてっていえば見せてくれるだろうけど。
1年でどれくらいとかは、あんまりに気にしていない。
今日1日でどれくらい浴びたかという線量が頭に入っていれば、なんとなく分かる。
――では1日で最高は?
最高だと、1・4ミリシーベツト/日かな。
一日の線量当量というのが決められて、予定表にかかれる。
一番、低くて0・3ミリシーベルト/日。その上が0/5ミリシーベルト/日。さらに0・8ミリシーベルト/日。それ以上になると放射線の特別教育というのを受けて、1ミリシーベルト/日から一番高いところで2・5ミリシーベルト/日。
全部1日の線量当量。結構すごい数字。俺も特別管理になったんだけど。
――放射線防護は、厳しくやっていた?
厳しい。C区域に立ち入った場合、ここが境界線だとしたら、この境界線を超えて、B区域に手を出すこともできない。境界線上で物を受け取るときに、ハイってわたすことはできても、境界線の外にいる人に触ることはできない。それくらい厳格にやっていた。
――どういう格好で入るのか?
基本的に、全部、着替えて入る。自分の持ち物はパンツだけ。長袖と長ズボンの肌着みたいなのがあって、その上に管理区域用のツナギを着る。
管理区域には、B区域、C区域、D区域というのがある。B服は青い服、C服は赤い服。
C服は、みんな赤服(あかふく)といっている。ただ、赤い服で行ける場所と、さらに汚染の濃度が高い場所になると、赤服の上にさらにタイベック(デュポン社製の防護服)を来て、フードマスクや全面マスクで入っていく。汚染があるといっても、いまの警戒区域のように汚染はしていない。それでもそういう格好で入っていく。
作業が終わったら、チェンジングプレイスという着替え場所に入る。ここまでがC区域で、ここからがB区域というところ。C区域の中で着ていたものは全部脱ぐ。
脱ぎ方もある。ゴム手袋も2枚していて、まず1枚目を取りなさい。次に汚染していないゴム手袋で服を脱ぎなさい。普通なら、こうやって袖がめくれないように脱ぐけど、そうじゃなくて、必ず裏返しにしながら、内側に汚染を巻き込んでいくように脱ぎなさいと。いろいろそういう脱ぎ方まで決まっている。
――それは内部被ばく対策か?
内部被ばくもあるが、身体汚染を避けるためということがある。
汚染は、服を着ているから肌につかないとは限らない。汚染物質は、ものすごく粒子が細かいので、服を着ていても、こすりつけたりしたら、そこに汚染物質がつく。水に流せば落ちると思うかも知れないけど、そうではない。
ひどいのになると、洗剤をつけてタワシで、ガサガサ、ガサガサと擦って、また測ってもらって、まだ落ちてないと、またやって。本当に真っ赤っかに腫れ上がるぐらい擦らないと落ちない場合もある。
(福島第一原発の事故処理にあたる作業員の姿)
――タイベックの効果は?
タイベックで防げるのはアルファ線だけ。
みんな勘違いしている部分があって、まず、放射線のレベルと汚染のレベルというのは全く考え方が違う。
汚染がなくても放射線がある場所もある。例えば配管の中に、高濃度の汚染物質があったとすれば、配管の外にも放射線は出てくる。
でも配管を触っても自分は汚染しない。中に閉じ込められているから。
汚染が低くても、線量の高い場所というのはB区域で、 汚染はほどんとない。でもそこにはあまり長い時間はいられない。線量が高いから。
よく、タイベックを着ると放射線を防げるんだと勘違いしているけど、あれは汚染物質が自分の体につくのを防ぐというだけ。
それに、みんなタイベックの運用方法を間違っている。タイベックを着て、汚染区域に入って、そのまま車に乗ってこっちに帰ってくるでしょ。あれはおかしい。
車の中というのは、汚染はされていない状況にしておかないと。入るときは着ていってもいい。でも帰るときに、あらかじめ汚染の低い場所に車を置いて、乗る前に着替えないと。
――汚染水を浴びることは?
水というのは、埃よりも、もっと厳しく管理していて、水に触るのは本当にタブー。
現場の中で水に触る作業というのは、きれいな水を使う配管の耐圧試験。配管を工事で新しくしたときとか、必ず耐圧試験をやる。水圧ポンプを持っていって、水を外から入れる。その水は水道水だから触っても大丈夫。
だけど、その水がこぼれたとか、下で作業している人にかぶってしまったとか、これはもう大騒ぎ。「それは耐圧用の水だから大丈夫だよ」といっても、必ず放射線管理員が何人も来て、「どこの水か、本当にこの水か」って測っていた。
――原子炉の真下の計器類の作業などは?
CRD(制御棒駆動機構)といって、制御棒を上げたり下げたりする装置がある。俺たちは、ペレスタル(圧力容器の下の台座)といっていた場所。
CRDも、時々交換しないといけない。放射線の高いレベルにさらされるし、劣化もするんで、計器類も校正しないといけない。一回外して、汚染のない場所に移動して、そこで検査するという作業がある。
そのときに水は落ちてくる。そこに入る人は、アノラックというビニールの雨合羽で、頭まで被って、全面マスクをして、開口部という開口部は全部、ガムテープで止めて、袖も裾も、というやり方でやっている。
キチッとやっていれば、雨合羽は濡れるけど、直接、自分の皮膚が濡れることはない。
――トイレが大変では?
昔はトイレも現場の中にはなかった。いまはトイレはある。
もちろん原子炉の中にはないけど、管理区域の中にはある。トイレが何カ所かあって、そこに行って用は足せるようになっている。
そんなに大変ではない。B区域ではツナギ1枚なんで。C区域の場合は、一回、B区域にでないといけない。一回、着替えて。B服に着替えて、トイレに行って、もう一回、C服に着替えてC区域に入る。
C区域で小便をしてきたというのは昔の話。C区域で服を脱いだらどういうことになるのかということは、みんなある程度分かっているから。
――健康診断は?
電離検診(※)と一般検診。
電離検診は半年に1回、一般検診は、昔は半年に1回だけど、基準が変わって、1年に1回なった。あまり気にしてなかったからどうだったか。
検査の内容は、採血して血液検査、あと胸部レントゲン、心電図、あと尿検査ぐらいだったと思うけど。
これとは別に、ホールボディーカウンターは3カ月に1回。電離則(電離放射線障害防止規則)で決まっている。
(※電離放射線健康診断: 管理区域に入る労働者に、6カ月ごとに実施を定められた健康診断。被ばく歴の有無の検査、白血球数及び白血球百分率の検査、赤血球数及び血色素料又はヘマトクリット値の検査、白内障に関する目の検査、皮膚(爪を含む)の検査)
――引っかかったことは?
一般検診で、血液中の脂肪が多いとかはあったけど。
ただ、「白血球の数がちょっと多いから、気をつけなさい」という人はいた。
――「気をつける」とは?作業内容の変更の指示があるのか?
病院の先生は、そこまで指示はしない。町医者だから。ただ「白血球が多いから気をつけなさい」と。漠然としているけど。
であまりにも白血球の数が多くて、「要注意だよ」となると、産業医がいるんで、それと相談して、作業内容も、「もう少し、こういうところにして下さい」と。
――産業医は?
産業医は、東芝には東芝でいる。
たとえば、「君、どういう仕事してんだ?」って聞かれて、「ドライウエル(格納容器本体)の中に入って、線量が高いところ」みたいな話をすると、「じゃ、なるべく線量の低いところにね。そっちにいって働くように会社に言っとくから」。一応、産業医から報告書みたいのが提出される。
また、血圧があんまり高い人の場合。C区域で倒れると、そこから搬出するのに、着替えとか、汚染を検査しないと外に出せないということがあり、そうやっている間に、あんまり重傷だと、死んじゃう。だから、体の調子が悪い人はC区域には入れないで、C区域の外でサポートに回るということがある。
一旦、C区域の中に入ってしまうと、ドライバー1本取りに行くだけでも、一々着替えないとならない。だから外に一人、置いておく。調子の悪い人には、「そっち回れ」って、みんなで工夫してやっていた。
【Ⅱ】 下請けいじめと労災隠し
(Jビレッジから第一原発に向かうバスに乗り込む作業員)
――1日のタイムスケジュールは?
8時に出勤して、朝礼やって、ラジオ体操。
それから、「今日はこの内容で作業します」というのをやる。
あとはKY(危険予知)とTBM(ツール・ボックス・ミーティング)。班長さんが「今日の役割分担、君は何をやる、君は何をやる」。それから注意事項。「こういう計器を扱うんで、これはすごい大切な物だから、強い衝撃を与えないように」とか、「そこにそういう配管が通っているから、そこには近づかないように」とか。
で段取りをして、現場に入って、作業に入る。
あとは人それぞれ。1日、5分もやると、終わってしまう人もいる。そうしたら事務所にあがってきて、待機であったり、書類の整理であったりとか。
管理区域内の作業は、国の法律で1日10時間と決められている。東電の管理では9時間半。その9時間半いっぱいになるまで働くというのもたくさんいるし、おれも危うく9時間半を超す寸前のときもあった。
――作業が押している?
そう。定期検査の期間をなるべく短くしようとしているから。
定検の期間を短くしてしまうと、中に詰め込まれている工事の工程も短くされてしまう。与えられた仕事量が多ければ、朝礼が終わったらすぐに現場に行って、毎日、残業して、休日も出勤して。
作業にかなり無理が生じる。ある程度、技術を持っている人間ならいいけど、まだ技術が甘い人間だと、時間内に納めなければならないということで、手抜きをしたり、そういうのがたくさんあった。
こに配管を通さないといけないのに、面倒くさいから、こっちにしておこうかとかインチキをする業者もいた。
下請けに矛盾を強いる構造
6次下請け、7次下請けまでいる。東京電力は、「3次下請けまでしかいない」っていっているけど。実際、何次なんだかわかんないのがいっぱいいる。
例えば、俺がいた東芝からいうと、大元の東芝があって、その下に東芝プラントシステムというのがあった。
その下に電気業務、計装業務、機械業務などをやる会社がいっぱい入っている。そこが3次下請け。
俺のところは、地元の会社で、4次下請け。だけど、3次下請けの名前の社員として、ある一定の期間だけ、登録する。
さらに、ウチの会社にも下請けがいる。例えば、今回の定検で、ウチの会社の作業量では、100人が必要だとなる。けど、ウチには15人しか人がいない。となれば下請けを使う。
4次下請けの下請けだから、5次下請けになる。5次の会社でも100人も集められない。となれば、そこからさらに下請け、下請けとなる。とすると6次、7次、8次と増えていく。
6次、7次、8次となると、ほとんど地元。△△工業とか、▽▽システムとか、適当な名前がついた会社。
着ている作業服もバラバラ。会社の名前が入っていたり、いなかったりで、みんな違う作業服を着ているから、一目瞭然、3次下請けのわけがない。
それは東京電力の社員が見ても明らか。でも東京電力は「3次までしかない」といっている。建前上は。派遣法に引っかかるから。
東京電力が言うように、「3次下請けまでしか絶対に雇わない」となれば、3次下請けがものすごい人数を社員として確保していなければならなくなる。そこに払う給料を考えると、とても3次下請けは原発から発注があっても受けられない。それなりの金額を払わなければならないわけだから。
例えば定期検査がない時期も、そういう人たちを雇っておかなければならない。その人たちに払う給料分まで全部面倒を見てくれないと、その会社はやっていけない。となると必然的に下請け、下請けになる。
構造的にそうしないと、運営できない状態なんだ。分かっていて、こういう構造にしている。
――除染に動員される作業員はどこから?
東京電力の子会社がある。東電工業、東京電気工務所、関電工、アトックス。そういうところが雇い入れている。除染業務はたぶんアトックスがやる。
その下請けのさらに下請けという人間が地元のヤクザで、それに集めさせる。書類上は3次下請けの社員となっている。
いま問題になっている、身元が分からないのがたくさんいて、ホールボディカウンターを受けられないという話が出ているけど、たんぶんそういう人間だと思う。
偽名を使って入っていくるのもいる。
――そういう人たちの放射線管理手帳は?
必ずつくらなければいけないから、つくるけど、何から何まで、偽名で住所もウソをついてということでつくれないこともないんで。できてしまう。
労災隠しが日常茶飯事
労働災害を起こしたとする。そうすると、東京電力にものすごく問いつめられる。ものすごいお叱りも受ける。本人だけでなくて、下請け会社そのものが責めれる。そして来年度の発注はなくなるという状況になる。となると、労災が起きても、隠せるものは全部隠す。そういう経験は、何回もある。
例えば、この辺(手の甲を指す)をちょっと傷がついた。絆創膏を貼ればいい程の物でも、「必ず報告しなさい」と言われている。それも一応労災なんで。普通のところですりむいたというのであれば、どうってことはないけど、管理区域の中なんで、内部被ばくが問題になる。
だけど報告したら終わり。
俺の知り合いだと、グラインダーで、ここ(手の平を指す)をザックリと切った。骨まで見えるぐらい。そこら中、血まみれになるぐらいケガしたけど、それも隠した。
それがバレてしまうと、会社そのものが来年度の発注がなくなるから。そういうペナルティーがあるので。
東京電力の人間に見られない内に、周りでみんな片づけて隠す。
骨折しようが何しようが、平気な顔で(管理区域を)出ていく。管理区域から出ていって、一応、会社の事務所では、「こういうケガをした。バレてないから大丈夫」と報告する。
――治療費や休業補償は?
3次下請けの会社で、労災がバレてしまうと、何カ月間の営業停止だとか、発注停止という処分が来る。そうなったら何十億円の損害になる。
であれば、その人間に休業補償なり、治療費なりをちょっと高めに出しても、黙っていてもらった方が得。「もしばれてないんだったら、とりあえずすぐ帰って病院に行け。金は全部やるから。休んでいる間の金も全部払うから。黙ってろ」となる。
使い捨てとういうこと。例えば、さっきのグラインダーで切ってしまったという話が東京電力にバレたとすると、その人間は仕事にはもう来れない。会社そのものも、ものすごいペナルティを受ける。
――どういう理由でペナルティなのか?
それは東京電力に聞いてもらわないと。なにせ、バレたらクビなので。大きな災害は。
手の骨を折ったなんていうのは、もう二度と行けない。現場で労災だとなればね。
「ウチで階段から落ちました」という報告ならオッケーだけど。
――そういう報告をするわけ?
例えば、顔に傷をつくったときも、家でころんだとか。犬の散歩で、犬に突然引っ張られたとか。適当な言い訳を考えて。
運悪く見つかったのはしようがない。隠しようもないのもあるからね。倒れて意識がないはどうにもならないから。そのときは正直に言うしかない。そういうこともあった。
例えば、管理区域の現場の中で意識を失ってしまったとか、あるね。そういう人間にバレないように出ていけっていっても無理だから。そうなれば、すぐに東京電力に連絡して、「こうこうこういうわけで意識を失っている人がいます」と「救急車の手配をお願いします」と、正当な手順を踏んで、やっていくしかない。それはほんとに最後の最後。
――被ばく危険もあるが、労災問題も大きいということ?
俺たちが気にするのは、労災問題の方だね。
放射線管理というのは、国で管理していることだから大丈夫だろうという意識がある。それに自分で線量計を持って、自分で確認できるし、それほど心配はしていない。内部被ばくの可能性も、3カ月に1回、ホールボディーカウンターを受けている。
東京電力は傷つかない構造
――労災問題を何とかするには?
いまの体制ではムリではないか。
原子力発電が一番コストが安いとか言ってきた。もちろん、事故が起きたらこれだけのコストがかかる。それは今回初めて分かったこと。それに、事故が起きる前、廃炉まで考えれば、そんなにコストは安くなかった。しかし、ふだんの運転中のコストが一番安いというのは、結局、俺らみたいな労働者に、それほど金を払わなければ、安く済むよねということなんだ。
労災を、俺たちが全部正直に言ってたら、たぶん新聞がいっぱいになる。新聞を1面、増やさないといけないくらい。それくらい日常茶飯事。
言われるのよ。同じ会社の中で、労災事故が3件あったら、ペナルティで来年の発注はなくなるって。だから労災はできるだけ隠す。
一年間の発注といったら、少ないところでも何億、多いところだと何十億。会社の存続が問題になってしまう。そういう風に脅かされるんで、労災は隠す。
隠すということは、隠した会社の責任になる。だから、もしバレても、東京電力は「知らなかった」で終わり。
東京電力には傷が付かないようにできている。ヒドイ会社だよね。
そういう意味で、俺ら使い捨てなんだよ。何かあったら切られる。責任は全部そこになすりつけられる。「あいつが勝手にやったことだから」と。「われわれは報告を受けていないからわからない」。
マスコミとかからは、管理体制が不十分だったんではないかとかいわれるけど、それは、「どうも申し訳ありません」って頭を下げれば済む。あいつら痛くも痒くもないね。
人間扱いではない
こういう体質が、嫌になったというのもあるね、原発の仕事を辞めた理由には。「結局、使い捨てか。どんなに頑張っても報われることはないな」って。
あの体質が本当に嫌になった。
例えば、いくら頑張っても、成果を残しても、「当然だ」と。「それが当たり前。なんかすごいことやったの?」。でもちょっとした労災を起こしただけで、東京電力に、「何やってんだ。ふざんけんな。どんだけ人に迷惑をかけんだ」ってぐらい、それこそ、部屋に閉じ込められて、「事情聴取だ」、なんだかんだって夜中までやられて。見つかればね。
そういう係が東京電力にいる。本当に取り調べ。
事故の大きさにもよるけど、警察が来たりとか、消防が来たりとか、労働基準監督署が来たりとか、その辺の対応とかにずいぶん人間を裂かれる。
そうすると、事故を起こした人間は、ケガして痛くても、夜中までそこに縛りつけられている。「まず病院に行かしたらいいじゃん」「かわいそうにな」と思う。本当に人間扱いではない。
――労基署は?
表向き監督していることにはなっている。
だけど、「検査に行きます」って、連絡が来る。「何月何日の何時頃、『抜き打ち』で」って。全然、抜き打ちではない。
そうすると、「書類を労基署に出すように、まとめておけ」。危ない作業があるときは、「違う日に回せ」。という感じで全部隠してしまう。
労基署も「いついつ行くよ」と言ってくるわけだから、全部、隠されているのは分かっている。でも、本当に抜き打ちでやっちゃうと、出入り業者がみんな営業停止処分になるぐらいのことをやっている。そうすると、原発が止まっちゃう。
行政も、国も、マスコミも、全部グル。
――労働組合は?
東京電力にはあるけど。俺らのことを心配するような組合では、全くない。
もし、下請けの人間が組合をつくって東京電力にタテをついたら、二度と出入り禁止。
下請けから見たら、東京電力は神様だから。東京電力から見たら、俺らみたいな作業員は使い捨てだから。
【Ⅲ】 欠陥の隠蔽と原子炉の破損
(6月に東京電力が撮影した、事故後の第一原発4号機の建屋内)
――原子炉の破損は津波以前?
そう。地震の直後、津波が来る前に第一原発から避難した作業員が、その後も第一原発には入っていないのに、ホールボディーカウンターで何千カウントとか、何万カウントという値が出た。そういうことを考えると、地震のときに、相当量の放射性物質が漏れていたんだろうなと、推測ができる。
――あの事故は想定外か、想定内か?
想定内だと思う。
ただ、いきなり4発も爆発するとは思っていなかったけど。
ある程度、原子炉が壊れて、ちょっとした放射能漏れがあるとか、そういうことは当たり前にあると思っていたから。
検査業務をやっているときにも、だいぶん改竄した書類をだしているんで。
――とうして改竄を?
東京電力からの命令。
欠陥があった部分について、東京電力は全部知っている。全部報告しているし、正確な書類も提出している。でも、通産省(当時)に提出する書類は、欠陥がなかったことになっている。
――欠陥とは?
溶接面のクラック。ヒビだね。溶接した場所というのは、応力がかかる。捻れとか、揺れとかの力。溶接面は、熱も加わっているから材質も変わっている。真っ平らになるわけではない。配管の内側の溶接リードが盛り上がる。そうするとそこの水流が乱れて、溶接面の付近が掘られたりする。その水流の乱れでガタガタ揺れる。そうすると揺れの力というのは、応力に変わって、溶接したリードに一番かかる。そうするとそこにヒビ割れが出てくる。
定期検査でそういうのを探している。で、すぐに直せるものは、すぐにやる。ちょこっと切断して、新しい配管をぽんとつけられば終わりというのはすぐやる。
でも、その回の定期検査中に間に合わないもの、例えばその配管を切るためには、原子炉の中の燃料をどかさないとならないとか、水をぬかなければならないという作業が関わってくると、その工事だけで何億円、何十億円とかかってしまう。原子炉が止っている期間も延びる。であれば、隠した方が安くあがる。
ものすごい重要な部分でもある。冷却水を通す配管なんかでも。そういうところの方が多い。直せないから。それをやるとなったら、大規模な工事になってしまうから。
いつでもパイプをスポッと切って直せるような所はすぐにやってしまう。メーカー(東芝や日立)もやっぱりお金になった方がいいから。だから、「これは直した方がいいです」という。で、工事に入れば、メーカーの収入になるから。メーカーは進んで直すようにする。
ただ、東京電力側のコストが問題になって、「そこまで予算がないから、これは今回はやらない」となれば、メーカーはもうなにも言えない。
メーカーと東京電力との関係はそういうもの。そこから金をもらっているわけだから。
俺ら(メーカーの下請けの作業員)は、東電さんといわずに「お客さん」といっていた。雇い主と社員の関係ではない。発注者とメーカー。だから余計、強いよね、向こうは。
――改竄とは具体的には?
修復した物に関しても、「欠陥があって、こういう風な修復をしました」と報告するよりも、最初から「欠陥がありませんでした」と報告した方が楽。修復した物についてもね。
通産省に一々「こういう欠陥がありました」「なぜこういう欠陥が起きたか」という報告書まで添えて出さないいけない。それをやるんであれば、修復した後に、「何もありませんでした」という書類を出した方が楽なんだ。東京電力にとっては。
まったく欠陥がなかったというのもあんまりにもウソ過ぎるので、ある程度、あまり重要ではないところを出しておく。で重要な部分は出さない。
報告といったら自治体にも報告しないといけないわけだから、「原発は危ないよね」となったら困るんでね。
それから、なぜこういう欠陥が出たのかという原因究明の書類を出すのも面倒臭いので、東京電力には、「欠陥がありましたよ」という書類は出すけれども、それ以上(通産省)には「欠陥がなかったよ」という書類になる。
そういう書類もずいぶん書いた。2つの書類をつくらされるということ。俺の方は仕事量が増えるだけ。
――もし遠藤さんがバラしたりしたら大変では?
でも証拠がないからね。手元に書類があるわけではないから。2つの書類を書いているという証言をしても、俺はそれを証明しようがない。そこでビデオを撮っていたわけでもないし、その書類をコピーして取っているわけでもないから。
いざバレたとなれば、メーカー側がやったことになる。東京電力は「私たちにはこういう書類しかあがってきていません」。
その書類を書いているのは、メーカーだから。「東京電力の指示でやりました」と言わない限り、「メーカーがやったことです」で終わり。
その代わり、罪を被ってもらう代わりに、来年は東京電力からメーカーに「もう少し多く発注を出すから」「単価をあげていいから」。その程度だと思う。
――書類の改竄は誰から?
会社の上司から。「この前、検査したヤツあっぺ。そいつ、こうこう、こういう風に書いてなあ」って。「はい、はーい」って普通に。
そのときは、俺もまだ若かったんで、「おかしいよな。これこの間、書いた書類だよな」って思いながら、従うしかなかったし、そのときは、そこまで深くは考えなかった。
ちゃんと図面まで書いてね。最初に出すときは、「こういう配管があって、ここに欠陥があって」と書くんだけど、それを全部「欠陥はなかった」という図面にしてしまう。
そういう書類は山ほど書いた。だから、そんなもの何千件、何万件もあると思う。全国の原発で、山ほどある。
――地震の衝撃で配管が破断したということか?
そう。何年か前に震度5強の揺れがあったときも、結構のダメージがあった。新潟の地震でも、あっちこっちがやられた。
配管を支えているサポートは、アンカーを打ってネジで留めている。地震の揺れで、アンカーごとぬけちゃったとか、配管が揺れて、サポートごと持って行かれちゃったとか。そういうのはたくさんあった。震度5強ぐらいで。
そのあと、結構、修理に入ったから。壁にヒビが入っていたとか、ヒビはそこら中にたくさんあった。
だから、今回の震度6強だったら、相当、やられちゃうだろうなと思った。揺れている時間も長かったし。
「揺れで原子炉のどっかがやられたんだぞ」という話を聞いて、「あー、それは、おかしくはないな」と。データ的なことがどうのこうではなくて、現場の状況としてね。
だって、地震のときに、津波が来る前に逃げちゃった人だって、みんな体内に放射性物質が大量に入っているということは、どっかしらが壊れて、漏れ出さないと、そんなことはありえない。
自分に与えられた仕事を責任を持ってきっちりとやるというやっぱり責任感もあって、誇りもあって、やっていたから、自分の仕事が直接、事故に結びついたかというのは、俺はそうは思わないけど、ただ、全体で考えると、事故に結びつくような状態だったんだろうなと思う。
【Ⅳ】東電の腐敗と恐怖支配
(08年、民主党の国会議員が福島第二原発を視察。写真中央が、後に経済産業大臣になる直嶋議員)
ヘルメットを被せてあげる
東京電力の闇というか恥部を見てきたね。とくに検査は恥部を見ちゃう仕事。
それから、見ていて一番、見苦しかったのは、通産省の役人が、立ち会いに来たとき。
「こちらにどうぞ」って椅子に座らせる。
東京電力の社員が、3人も4人も寄ってたかって、おろし立てのピッカピッカのヘルメットを「失礼いたします」って、被せてあげて、顎ひもまで締めてあげる。
そして「失礼いたします」って靴も脱がせて、新しい靴を履かせるあげる。
本当に重要な部分に、役人でもエライさんが来るときね。
殿様、殿様以上だね。だってこうやって座っていればいいんだから。そうすると、東京電力の社員が「失礼いたします」って。
「おめえ、靴もはけねえのか」って、俺らは、冷ややかに見ている。
原子力のことを何も分からない役人が、「これは、こうなんですね」と東京電力の適当な説明を受けて、「あー、オッケー、オッケー」。
俺らは、「ほんとに?それでいいの?何にも見てないじゃん」
まあ、あとは、仕事が終わってから接待。電力さんに連れられて。
それも見ていたら、本当に嫌になるね。そこで働いている自分のことが情けなくなってくる。
電気をつくるとということがメインで、それには、誇りもあった。だけど、ああいう人たちのために、俺たちが、こうやってヒドイ思いをしているのかと思うと、ほんとに情けない。
ヤクザが幼稚園児に見えるくらい怖い
俺の名前が出ちゃうとマズイね、やっぱり。ものすごい圧力が来るだろうから。東京電力はおっかない会社なんで。
実際、消させる人間もいるからね。自殺に見せかけて。どう考えても状況的におかしいだろうというのがあるからね。すべてがグルだから。人が殺されようが、何しようが刑事事件になんないから。
そういう中で、みんな暮らしているし、会話するにしても、何するにしても、そういうのが、心の縛りになっている。
怖いよ。その辺のヤクザが幼稚園児に見えるくらい、怖い。
なんせ、電力会社、国、ヤクザ、銀行。一体のものだから。そこに狙われたら、もう勝ち目はない。
殺されないまでも、何かあったら、逃げられない。
佐藤栄佐久知事も逃げられなかった。プルサーマルを容認しなかっただけ。それで抹殺された。からんだ会社が水谷建設。発電所の建設には必ず水谷建設がからんでいる。
町全体にはそんなに恐怖感はないけど、原発に携わっている人間が恐怖感を持っている。そして、原発に携わっている人間がたくさんいる。
いまでも電力会社に勤務している人間は、へたなことを言ったら、自分の生活がなくなる。殺されるまでは行かないけど、仕事がなくなって、生活ができなくなる。となると言えない。
俺のように、これだけ話すのはまれ。いまも仕事をしている人は、こういう話をするのは無理。もしばれたら、大変なことになる。
俺だって、ずっとこうやって話し続けたら、脅迫とか、それなりのことはあるんじゃないかと、想像をする。
普通の会社で、内部告発をして、どっかに飛ばされるというレベルではない。
この支配をうち破っていくことは相当に難しいと思う。
それを変えようと思ったら、国民全員で騒がないと。それくらいのことがないと、かわらないんじゃないかと思う。
【Ⅴ】南相馬の復興ために
――原発に批判的なったのは?
それは、事故後のこと。
政府とか、原子力保安院の対応とか、東京電力の対応とか、マスコミで流れる情報だけでなく、自分自身で電話をして、「あれはどうなの?」と聞いても、全然、誠意ある答えが帰ってこなかった。
ホールボディーカウンターの問題。俺は、3月、4月の段階で受けておかないと、将来、補償問題になったとき、証拠が残らないなと思って、まず福島大学に問い合わせたら、「受け付けていません」。県の放射線にかんする窓口に相談すると、あっちこっちの病院の名前を教えてくれる。そこに全部かけても全部断られる。
「なんでホールボディーカウンターを受け付けてくれないんですか」って聞いたら、「いま、ここに住んでいる住民は内部被ばくの可能性はないから、検査する必要がない」、全部の病院・機関が、口をそろえて同じことを言う。
「なんか根拠あるの」と聞いても、「いやその可能性はないので」。
その後、福島第1原発近くに自宅があり、事故後に家族の避難などのために帰宅したり、福島第1、第2両原発から他原発に移った作業員が、何千人も内部被ばくしていたという報道があった。それが出てからもう一度、同じ所に電話をかけまくった。
「何日間とか何時間しかいなかった人間があれだけ内部被ばくしているのに、何で俺らはしていないと言い切れるのか」
そしたら、「さあ、そういう情報があるんですか」と、保安院がいってたからね。発表したのも保安院の委員長だったんだけど。
あの対応で、「ああ、もう信じられない」と思った。その前から体質はわかっていたけど、あそこまでヒドイとは。
(会見を行う原子力安全保安院・西山審議官・当時)
――原発はこれからどうしたらいいと?
極左的なことを言っちゃうと、「いますぐ全原発を止めて廃炉にしろ」という論議もあるよね。でも、それは現実的には無理だろうと思う。
原発の代わりになる代替エネルギーというのを、国会でどんどん進めてもらって、研究者にも、代替エネルギーというのをもっと効率のいい物にしてもらう。そういう中で、これくらいの物ができたら、じゃあ原子炉を何基、壊せるからと、順次廃炉にしていく。そういうやり方が一番いいと思う。
――南相馬については?
仲間内で、遊びの話で盛り上がっても、結局、最後は、こういう話になって、まいったなあという話になる。
普通にこう話をしていても、家に帰れない人がいるわけ。20キロ圏内で。ふざけた話をしていても長続きがしない。どっかで引っかかっていて、心の底から笑えない。
――この間で前向きに動いたことは?
うーん。
「自分たちでやっていこう」となってきたことかな。
それまでは、ただ「どうしよう、どうしよう」という感じ。「国が方針を示してくれないと動きようがない」とか言っているだけだった。
そうじゃなくて、「自分でやっていくしかないよ」と思い始めた。
これは、一番、前向きな話。
「国は当てにならない」、「市もあてにならない」、「東京電力もあてにならない」。
それで一旦は諦めた。これは一歩後退。
でも、そこからもう一度、「自分たちでなんとかしないと」という気持ちを持った。これは一歩か二歩前進。
総体としては、差し引きゼロではなく、プラス、前進になっている。
ただ、目の前のことをどうするということだけで、まだ、将来、こうしていこうなんてビジョンは描けない状況。
俺は、とにかく、ここに住み続けようと思う。どんなに声をあげようが、余所にいたら、説得力はないので。オリの外からほえてもね。オリの中にいないと。
俺自身の一番の望みは、この地域を復興させて、以前よりいい町にしたいということ。「そのために、みんな帰ってきてください」とは言えないけど。危険性もわかっているんで。その危険性を取り除くことをみんなでやっていかなきゃなと思う。
危険でなくなれば、みんな自ずと帰ってくれるから。ちゃんと情報を出してね。正確な情報を出して。御用学者に頼るんではなくて、もっと正確な情報を出せば、みんな、「まだ危ないんだなあ」というのもわかるし、「もう安全なんだなあ」というのもわかる。
――県外の人たちへ一言
この間、テレビのインタビューを受けた。「これから、被災地にどういう支援を望みますか」って質問をされた。
たしかに食糧や水をもって来てくれたこととか、ガレキ撤去に来てくれていることとか、すごくありがたい。
ただ、こういうこともある。
南相馬市民が、どんなに一致団結して騒いだって、たかだか何万人。
全国の人間が、一斉に声をあげてくれないと国は動かない。「その声をあげてくれることが一番の復興の近道だと思います」ということを言った。
例えば、除染に関しても、俺たちだけが、「除染して下さい」と騒いでも、「しません」と言われて終わり。でも全国から、「あそこの汚染地域に人が住んでいるだから、除染をしてあげるべきだ」とみんなが騒いでくれたら、国も黙っていられないと思う。国を動かす力を国民は持っている。
そういう声をたくさんあげてほしい。それが俺たちにとって、助けになることだから。
物資支援やガレキ撤去もあるが、それよりも、国を動かしてもらう、それに力を貸してもらえる、というのが、被災地にとっては、一番、復興への力になるのかなと思う。(了)
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