カルロス・カスタネダ
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カルロス・カスタネダ(Carlos Castaneda、1925/31?年12月25日 - 1998年4月27日)はペルー生まれのアメリカの作家・人類学者。
カルロス・カスタネダの一連の著作は、呪術師ドン・ファンの実在性について大きな論争を巻き起こした。ドン・ファンは実在の人物ではなく、哲学的パフォーマンスよって演じられた架空の人物ではないかとの推測もなされている。またカルロス・カスタネダの最初の妻 Margaret Runyan Castaneda は著書 My Husband Carlos Castaneda で、カスタネダの著作に書かれているような話は物理的事実としては存在しないとしている。ともあれ、ドン・ファンを通して語られた非西欧的な知恵は読者を魅了し、アメリカ合衆国を中心として世界に広がったカウンターカルチャー全般、とりわけスピリチュアリズム、ニューエイジ運動などに影響を与えた。その背景には、ビートニク世代から受け継がれた禅や道教といった東洋思想への関心や、「他者の思想」によって西欧中心の世界観を反省しようとする人類学的な思想背景があった。
一連の著作のインパクトは実に幅広い分野に及んでいる。カスタネダの著作は、例えば日本では最初哲学者の鶴見俊輔によって紹介され、社会学者の見田宗介(真木悠介)によって比較社会学やコミューン研究の立場から読解がおこなわれた。フランスでもジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』で引用され、スピノザ哲学やアントナン・アルトーの文学実践とともに、鍵概念である「器官なき身体」を導く例として大きな問題を提起した。ドゥルーズとガタリは「カスタネダの本を読んでいくうちに、読者にはドン・ファンというインディアンの実在性が疑わしくなり、他にも多くのことが疑わしくなる。しかし結局それは、まったくどうでもよいことだ。カスタネダの本が民俗誌学というよりは諸説の混沌とした記述であり、秘技伝授についての報告というよりは、実験の定式であるとしたら、なおさらいいのだ」と述べている[1]。また日本の宗教人類学者、中沢新一は、ハロルド・ガーフィンケルによる微視社会学のメソッド「エスノメソドロジー」をアレゴリー化し、「西欧の近代知に内属する人類学的思考の限界をつきぬけようとした」実践例であると述べる[2]。
初期の著作はポストモダン人類学や宗教現象学の実例として大きな話題を呼んだが、後年カスタネダ自身が自ら体得した知恵を紹介し始めたことから、ネオシャーマニズムのリーダー的存在と見なされるようになっていった。心理療法家のアーノルド・ミンデルはその著『シャーマンズ・ボディ』でカスタネダの示したメソッドを発展的に紹介している。日本では宗教人類学者の永沢哲が、こうした文脈の中でカスタネダを評価している。また、精神主義的なニューエイジ運動に距離をとっている芸術家たちの多くも影響を公言している。たとえば、作家のよしもとばなな、音楽家の細野晴臣もカスタネダの著作を愛読書として挙げているほか、漫画家の藤原カムイの初期作品に影響が見られる。おなじく外薗昌也の漫画『ワイズマン』は直接の影響関係にある。元格闘家の須藤元気が自身の著作で『呪術師と私』を紹介したことから再び注目されている。
1998年4月27日にロサンゼルスにて肝臓癌で死亡したとされているが、彼の死については情報が少なく正確なことはわかっていない。
概要[編集]
UCLAで文化人類学を学び、ヤキ・インディアンの呪術師ドン・ファン・マトゥス(カチョーラ・ギッティメア Cachora (Kachora) Guitimea)の下で修行と著作で記述される。その著作には、呪術師との哲学的な対話や薬草を用いた意識の変容体験等が、社会学や人類学のフィールドワークを下敷きにした、生き生きとしたルポルタージュの様式によって描かれている。公式な場面に姿を見せなかったため、謎が多い作家としてさまざまな推測を生んだ。『魔女の夢』フロリンダ・ドナー(日本教文社)と、タイシャ・エイブラー (Taisha Abelar) の著書 The Sorcerer's Crossing に序文を書いている。カルロス・カスタネダの一連の著作は、呪術師ドン・ファンの実在性について大きな論争を巻き起こした。ドン・ファンは実在の人物ではなく、哲学的パフォーマンスよって演じられた架空の人物ではないかとの推測もなされている。またカルロス・カスタネダの最初の妻 Margaret Runyan Castaneda は著書 My Husband Carlos Castaneda で、カスタネダの著作に書かれているような話は物理的事実としては存在しないとしている。ともあれ、ドン・ファンを通して語られた非西欧的な知恵は読者を魅了し、アメリカ合衆国を中心として世界に広がったカウンターカルチャー全般、とりわけスピリチュアリズム、ニューエイジ運動などに影響を与えた。その背景には、ビートニク世代から受け継がれた禅や道教といった東洋思想への関心や、「他者の思想」によって西欧中心の世界観を反省しようとする人類学的な思想背景があった。
一連の著作のインパクトは実に幅広い分野に及んでいる。カスタネダの著作は、例えば日本では最初哲学者の鶴見俊輔によって紹介され、社会学者の見田宗介(真木悠介)によって比較社会学やコミューン研究の立場から読解がおこなわれた。フランスでもジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』で引用され、スピノザ哲学やアントナン・アルトーの文学実践とともに、鍵概念である「器官なき身体」を導く例として大きな問題を提起した。ドゥルーズとガタリは「カスタネダの本を読んでいくうちに、読者にはドン・ファンというインディアンの実在性が疑わしくなり、他にも多くのことが疑わしくなる。しかし結局それは、まったくどうでもよいことだ。カスタネダの本が民俗誌学というよりは諸説の混沌とした記述であり、秘技伝授についての報告というよりは、実験の定式であるとしたら、なおさらいいのだ」と述べている[1]。また日本の宗教人類学者、中沢新一は、ハロルド・ガーフィンケルによる微視社会学のメソッド「エスノメソドロジー」をアレゴリー化し、「西欧の近代知に内属する人類学的思考の限界をつきぬけようとした」実践例であると述べる[2]。
初期の著作はポストモダン人類学や宗教現象学の実例として大きな話題を呼んだが、後年カスタネダ自身が自ら体得した知恵を紹介し始めたことから、ネオシャーマニズムのリーダー的存在と見なされるようになっていった。心理療法家のアーノルド・ミンデルはその著『シャーマンズ・ボディ』でカスタネダの示したメソッドを発展的に紹介している。日本では宗教人類学者の永沢哲が、こうした文脈の中でカスタネダを評価している。また、精神主義的なニューエイジ運動に距離をとっている芸術家たちの多くも影響を公言している。たとえば、作家のよしもとばなな、音楽家の細野晴臣もカスタネダの著作を愛読書として挙げているほか、漫画家の藤原カムイの初期作品に影響が見られる。おなじく外薗昌也の漫画『ワイズマン』は直接の影響関係にある。元格闘家の須藤元気が自身の著作で『呪術師と私』を紹介したことから再び注目されている。
1998年4月27日にロサンゼルスにて肝臓癌で死亡したとされているが、彼の死については情報が少なく正確なことはわかっていない。
脚注[編集]
- ^ ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリ『千のプラトー 資本主義と分裂症(上)』宇野邦一他訳、河出文庫、331〜332頁。
- ^ 「孤独な鳥の条件」『チベットのモーツァルト』所収、講談社学術文庫、2010年、55〜56頁。
著作文献リスト[編集]
- 『呪術師と私 - ドン・ファンの教え』 真崎義博訳、二見書房、1972年。ISBN 4-576-00029-2。(最初は『呪術ドン・ファンの教え - ヤキ族の知』の題で刊行)
- 『呪術の体験 - 分離したリアリティ』 真崎義博訳、二見書房、1973年。ISBN 4-576-00030-6。
- 『呪師に成る - イクストランへの旅』 真崎義博訳、二見書房、1974年。ISBN 4-576-00031-4。
- 『未知の次元 - 呪術師ドン・ファンとの対話』 真崎義博訳、講談社〈講談社学術文庫〉、1979年。ISBN 4-06-159078-2。
- 『呪術の彼方へ - 力の第二の環』 真崎義博訳、二見書房、1978年。ISBN 4-576-00088-8。
- 『呪術と夢見 - イーグルの贈り物』 真崎義博訳、二見書房、1982年。ISBN 4-576-00196-5。
- 『意識への回帰 - 内からの炎』 真崎義博訳、二見書房、1985年。ISBN 4-576-85026-1。
- 『沈黙の力 - 意識の処女地』 真崎義博訳、二見書房、1988年。ISBN 4-576-90079-X。
- 『夢見の技法 - 超意識への飛翔』 真崎義博訳、二見書房、1994年。ISBN 4-576-94175-5。
- 『呪術の実践 - 古代メキシコ・シャーマンの知恵』 結城山和夫訳、二見書房、1998年。ISBN 4-576-98169-2。
- 『無限の本質 - 呪術師との訣別』 結城山和夫訳、二見書房、2002年。ISBN 4-576-01154-5。
- 『時の輪 - 古代メキシコのシャーマンたちの生と死と宇宙への思索』 北山耕平訳、太田出版、2002年。ISBN 4-87233-537-6。
参考文献[編集]
- 島田裕巳 『カルロス・カスタネダ』 筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2002年。ISBN 4-480-08684-6。
- リチャード・デ・ミル、マーティン・マクマホーン 『呪術師カスタネダ - 世界を止めた人類学者の虚実』 高岡よし子、藤沼瑞枝、訳、大陸書房、1983年。ISBN 4-8033-0701-6。
- 鶴見俊輔 『鶴見俊輔集〈9〉方法としてのアナキズム』 筑摩書房、1991年。ISBN 4-480-747095。
- 中沢新一 『チベットのモーツァルト』 せりか書房、1983年。ISBN 4-7967-0136-2。 講談社〈講談社学術文庫〉、2003年。 ISBN 4-06-159591-1
- 真木悠介 『気流の鳴る音 - 交響するコミューン』 筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、1986年。ISBN 4-480-08749-4。
- 永沢哲 『野生のブッダ』 法蔵館、1998年。ISBN 4-8318-7238-5。
- アン・バンクロフト 『20世紀の神秘思想家たち』 吉福伸逸、訳、平河出版社、1984年。ISBN 4-89203-073-2。
- 高藤聡一郎 『悠かなる虚空への道』 たま出版、1984年。ISBN 4-88481-114-3。
- アーノルド・ミンデル 『シャーマンズ・ボディ』 青木聡、訳、コスモス・ライブラリー、2001年。ISBN 4-434-01282-7。
- 須藤元気 『バシャール スドウゲンキ』 ヴォイス、2007年。ISBN 978-4-89976-221-8。
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