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パーキンソン病関連疾患(3)パーキンソン病(公費対象)
ぱーきんそんびょうかんれんしっかん ぱーきんそんびょう
この病気は公費負担の対象疾患です。公費負担の対象となるには認定基準があります。
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1. パーキンソン病とは | |||||||||
ふるえ、動作緩慢、小刻み歩行などを主な症状とする病気です。 | |||||||||
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか | |||||||||
日本では、人口10万当たり100~150名の患者さんがおられます。 | |||||||||
3. この病気はどのような人に多いのですか | |||||||||
発症年齢のピークは、50歳代後半から60歳代にあります。従って比較的高齢者に多いといえます。しかし、例外的に20歳代の発症者や、80歳を超えてからの発症者もあります。男女比は、日本では女性の方が長命なので、女性の方に少し多いですが、発生頻度は男女同数です。 | |||||||||
4. この病気の原因はわかっているのですか | |||||||||
脳内の中脳という場所の黒質という部分の神経細胞の数が減ることが原因です。ここの神経細胞は、ドパミンという神経伝達物質を作ります。ドパミンはこの細胞が伸ばした突起を通して線条体という部分に運ばれ、突起の先端に貯蔵されて必要に応じて利用されます。したがってパーキンソン病では線条体のドパミンが減少します。黒質のドパミンを作る細胞がなぜ減るのかはまだよくわかっていませんが、細胞の中にレビー小体というタンパク質が溜まることと関係があると考えられています。レビー小体が溜まる原因として、いくつかの仮説が提唱されていますが、真相はまだ判っていません。 | |||||||||
5. この病気は遺伝するのですか | |||||||||
通常遺伝はしませんが、若年発症の一部は、家族性に起きます。 | |||||||||
6. この病気ではどのような症状がおきますか | |||||||||
四大症状は(1)安静時のふるえ、(2)筋強剛(筋固縮)、(3)動作緩慢、(4)姿勢反射障害です。このほか(5)同時に二つの動作をする能力が低下し、(6)自由な速さのリズムが作れなくなります。 パーキンソン病に特徴的なのは力を抜いてリラックスしたときのふるえです。ただし力を入れたときにふるえることもあります。筋強剛とは関節を曲げ伸ばしするときに強い抵抗を感じることです。このため動作がぎこちなくなります。パーキンソン病では動作が遅いのみならず、動きそのものが少なくなります。患者さんはまばたきが少なく、表情ひとつ変えず、寝返りもしません。動けば遅く、スローモーションを見ているようです。 姿勢反射とは体が傾いたときに足を出して姿勢を立て直すことです。これが障害されると転びやすくなります。 同時に二つの動作をする能力が低下すると、お盆にのせたお茶をこぼさないよう気を配ると足が出なくなり、クラッチを踏みながらギア操作をするマニュアル車の運転が難しくなります。 自由な速さのリズムが作れず、全てのリズムが1秒間に4~5回のふるえのリズムに合うようになります。その結果1分間に240~300歩で歩こうとするので足がすくんで前に進まなくなります。 パーキンソン病は左右どちらか片側から発症します。2~3年すると反対側にも症状が現れますが、長年経過しても左右差を認めるのが普通です。初発症状はふるえが最も多く、次いで動作のぎこちなさが多いのですが、痛みで発症することもあります。五十肩だと思って接骨院にかかっていたら、ふるえが出てきてパーキンソン病だと判ったといった具合です。しかし最初から姿勢反射障害や足のすくみで発症することはありません。左右差を認めない症例や、姿勢反射障害や足のすくみで発症する症例は、パーキンソン症状を呈するパーキンソン病以外の病気を疑う必要があります。このような病気は「パーキンソン症候群」としてパーキンソン病と区別されます。具体的には(1)薬剤性パーキンソニズム、(2)脳血管性パーキンソニズム、(3)進行性核上性麻痺、(4)多系統萎縮症のパーキンソン型、(5)大脳皮質基底核変性症、(6)特発性正常圧水頭症などが含まれます。 | |||||||||
7. この病気にはどのような治療法がありますか | |||||||||
治療の基本は薬物療法です。大きく分けて8グループの薬が使われます。それぞれには特徴があり、必要に応じて組み合わせて服薬する必要があります。どの薬も病気を根本的に治療する「原因治療薬」ではありません。不足しているドパミンを補うことで症状を緩和する「補充療法薬」です。したがって薬を服薬しているときは症状が良くなりますが、服薬を止めれば症状は元に戻ります。もう一つの治療法として手術療法がありますが、これも対症療法であり根本治療ではありません。以下に8グループの薬を解説します。レボドパとドパミンアゴニストが基本薬で、その他の薬は補助薬になります。詳しくは図を参考にしてください。また、従来から手術治療も行われてきました。特に2000年の4月から脳深部刺激治療が保険適応となり、選択肢の幅が広がりました。 ドパミンの原料はチロシンです。チロシンはチロシン水酸化酵素(TH)の働きでDOPAに、DOPAはドパ脱炭酸酵素(DDC)の働きでドパミンになります。ドパミンは中脳の黒質にあるドパミンを作る細胞で作られ、突起を通り線条体まで運ばれ、ここで突起の先端に貯蔵されます。ドパミンは必要に応じて突起の先端から分泌され、線条体の細胞にあるドパミン受容体に結合して情報を伝えます。仕事を終えたドパミンはドパミンを作る細胞の突起の先端に取り込まれて再利用されるとともに、MAOあるいはCOMTと呼ばれる酵素によって分解されます。線条体ではドパミンのほかにアセチルコリンという神経伝達物質があって、両者はバランスをとっています。パーキンソン病ではドパミンが減少するため、相対的にアセチルコリンが過剰になります。これが抗コリン薬を治療に使う理由です。ドパミンはドパミンβ水酸化酵素の働きでノルエピネフリンになります。パーキンソン病が進行すると、ノルエピネフリンも不足します。 | |||||||||
薬物療法 | |||||||||
(1)L-dopa(レボドパ) | |||||||||
最も強力なパーキンソン病治療薬です。1970年代のこの薬の登場は、パーキンソン病の治療に画期的な進歩をもたらしました。それまで発症後5年で寝たきりだったのが、10年経っても歩けるようになりました。ところがレボドパの服薬期間が長くなると、さまざまな問題が起こります。最大の問題は薬効の変動です。レボドパの作用時間は短いため、内服すると動けるようになりますが、2時間もすると効果が切れて急に動けなくなります。これを英語で擦り切れるという意味のウェアリングオフ(wearing-off)現象と呼びます。効果が切れて動けなくなるのを恐れてレボドパを過剰に服薬すると、今度は身体が勝手に動くレボドパ誘発性の不随意運動(ジスキネジア)が出現します。 パーキンソン病の脳内で不足するのはドパミンです。脳内のドパミンを補充すれば元のように動けるようになりますが、ドパミンを服薬しても血液中から脳内に入りません。そこでドパミンの前駆体であるDOPAを薬として服用します。DOPAにはL型とR型がありますが、このうちL型だけが脳内に入るので、L-dopa(レボドパ)が使われます。しかし消化管や血液中にはDOPAをドパミンにするドパ脱炭酸酵素(DDC)が豊富にあるため、レボドパだけ服薬する とDDCにより分解されてしまいます。そこで1980年以降わが国ではレボドパと末梢性DDC阻害薬との合剤(商品名:イーシードパール、マドパー、ネオドパゾール、メネシット、ネオトパストンなど)が一般的に用いられています。なお、レボドパは血液中のCOMTという酵素によっても分解されます。そこで末梢性COMT阻害薬であるエンタカポン(商品名:コムタン)を同時に服薬することも行われています。 | |||||||||
(2)ドパミンアゴニスト | |||||||||
レボドパの副作用を克服するために開発されたのが、作用時間の長いドパミン受容体刺激薬(アゴニスト)です。我が国では現在6種類のドパミンアゴニストが使用可能です。ドパミンアゴニストは長くのみ続けても、薬効の変動(ウェアリングオフ現象)やジスキネジアが生じにくいことがわかっています。しかしレボドパより効くのに時間がかかり、また吐き気や幻覚・妄想などの副作用が出やすいという欠点があります。薬効の変動やジスキネジアの起きやすい若年の症例は、なるべくドパミンアゴニストで治療を開始した方が良いでしょう。いずれレボドパが必要になる日が来るのですが、今後の長い人生を考えるとレボドパの服薬開始を少しでも遅らせて、薬効の変動を先送りしたいからです。一方高齢の症例は、最初からレボドパで治療開始して良いでしょう。効果は確実ですし、高齢者は薬効の変動(ウェアリングオフ現象)やジスキネジアが起きにくいと言われています。6種類のドパミンアゴニストはそれぞれ特徴があるので、使い分けが必要です。詳しくは専門の先生と相談してください。また、ペルゴリド(商品名:ペルマックス)やカベルゴリン(商品名:カバサール)で心臓弁膜症や肺線維症が起きたという報告があります。そこで、これらの薬を使用するときは心エコー検査等で定期的に心臓の弁をチェックすることになっています。一方、プラミペキソール(商品名:ビ・シフロール)やロピニロール(商品名:レキップ)では、運転中に突然入眠して事故を起こす「突発的睡眠」が起こることがあるため、服薬中は運転しないよう警告が出されています。 | |||||||||
(3)抗コリン薬 | |||||||||
パーキンソン病の治療薬として最初に使われた薬です。トリヘキシフェニジール(商品名:アーテン)が有名です。パーキンソン病ではドパミンの減少に伴って、もうひとつの神経伝達物質であるアセチルコリンが相対的に過剰になります。それを減らす目的で使われます。効果は弱いのですが、振戦に対して有効なことがあります。なお、認知症の原因となるアルツハイマー病では、最初に脳内のアセチルコリンが減少します。したがって高齢者が抗コリン薬をのむと、物忘れや幻覚・妄想などアルツハイマー病に似た症状が出ることがあるので注意が必要です。 | |||||||||
(4)塩酸アマンタジン | |||||||||
塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル)は元々抗ウイルス薬として開発され、A型インフルエンザの治療薬としても使われています。線条体でのドパミン放出を促す働きがあるほか、ジスキネジアを抑制する効果が知られています。ただし全ての患者さんに有効なわけではなく、また副作用として幻覚や妄想が出やすいので注意が必要です。 | |||||||||
(5)ドロキシドパ | |||||||||
長期経過したパーキンソン病で問題になる症状のひとつに、「足のすくみ」があります。これにはもう一つの神経伝達物質であるノルエピネフリンの関与が示唆されています。ノルエピネフリンはβ水酸化酵素によってドパミンから合成されるため、ドパミンが減るとやがて不足します。前駆体であるドロキシドパ(商品名:ドプス)はそれを補うために使われます。ただし全ての患者さんに有効なわけではありません。このほか意欲低下や立ちくらみを改善する効果が知られています。 | |||||||||
(6)MAO-B阻害薬 | |||||||||
MAO-B阻害薬である塩酸セレギリン(商品名:エフピー)はMAOの活性を低下させてドパミンの分解を抑制します。これによりレボドパの効果は延長しますが、ジスキネジアは悪化することがあります。MAO-B阻害薬はノルエピネフリンやセロトニンなど他の神経伝達物資の分解も抑制するので、服薬すると意欲が出て気分が明るくなる傾向があります。その一方で、幻覚・妄想や夜間不眠などに注意が必要です。作用時間は非常に長いので、1日1回(朝)か2回(朝と昼)の服薬で十分です。 | |||||||||
(7)末梢性COMT阻害薬 | |||||||||
吸収されたレボドパは血液に入り、血液脳関門を通って脳に入ります。血液の中にはドパ脱炭酸酵素(DDC)やCOMTという酵素があり、レボドパを分解します。現在使われているレボドパ製剤の多くは、レボドパと末梢性DDC阻害薬の合剤です。このため、レボドパはCOMTによって分解されます。末梢性COMT阻害薬のエンタカポン(商品名:コムタン)はそれを防いでレボドパが脳内にたくさん入るようにする薬です。非常に良く効いてレボドパの薬効の変動(ウェアリングオフ現象)が無くなる患者さんも居ますが、全く効果を認めない患者さんも居て、個人差が大きいのが特徴です。コムタンの効果は短いので、毎回レボドパと同時に服薬する必要があります。 | |||||||||
(8)ゾニサミド | |||||||||
この薬は、既にてんかんの治療薬として使われていましたが、2009年にパーキンソン病に使うことが認められました。パーキンソン病に使う薬は商品名トレリーフで、1錠が25mgです。一方、てんかん予防に使うのは商品名がエクセグランで、1錠100mgです。間違えないようにしましょう。他の薬と違って、どうしてパーキンソン症状を改善するのか、その理由は完全には解明されていません。他の薬による治療が奏功しないときに使う薬で、レボドパとの併用が基本です。全ての患者さんに有効なわけではありません。この薬も作用時間は長いので、1日1回の服薬で十分です。 パーキンソン病では、複数の薬を組み合わせて服薬することがよくあります。薬によって、服薬のタイミングが異なりますので、その理由をよく理解して服薬することが大切です。また、パーキンソン病の治療薬以外の薬を併用するときには、飲み合わせに注意することも大切です。服薬する全ての薬を、主治医に確認してもらってください。 | |||||||||
手術療法 | |||||||||
パーキンソンの手術療法の歴史は長く、定位脳手術が開発されたのは1947年のことです。定位脳手術とは、頭蓋骨に固定したフレームと脳深部の目評点の位置関係を三次元化して、外から見ることのできない脳内の目評点に正確に到達する技術です。頭蓋骨に開けた小さな穴から針を刺すだけなので、手術侵襲は非常に軽くて済みます。1950年代から60年代にかけて、この手術はさかんに行われました。当時はCTスキャンもMRIも無い時代で手術の危険性は高かったのですが、有効な薬が誕生する前だったため、手術を希望する人がたくさんいました。1970年に強力な治療薬であるレボドパが出現すると、手術を受ける人は激減しました。しかし、レボドパをのみ続けるとさまざまな問題が起こります。それを回避する手段として、1980年代後半から再び定位脳手術がリバイバルしました。技術革新によって、1950~60年代とは比べものにならないほど正確かつ安全に手術が出来るようになったことも関係しています。 脳内の特定の部位を破壊すると、パーキンソン症状が改善することが判っています。目標となるのは視床、淡蒼球、視床下核の3ヶ所です。どの部位を治療すると、どの症状が良くなるかは、これまでの経験からだいたい判っています。 定位脳手術には、熱を加えて目標点を破壊する従来の方法(凝固術)のほか、脳深部刺激治療(DBS:deep brain stimulation)があります。DBSは脳深部に電極を留置し、前胸部に植え込んだ刺激装置で高頻度刺激する治療法です。高頻度刺激すると、神経細胞は活動を休み、そこを破壊したのと同じ効果が得られます。我が国では2000年4月から保険適用が認められました。DBSは脳を破壊しないので手術合併症が少ないかわり、異物が体内に残るため感染や断線の危険があります。 パーキンソン病の定位脳手術は特殊な技術を要するため、限られた病院でのみ実施されています。手術療法も、病気の原因を根本的に治す根治療法ではありません。一時的に症状を改善する対症療法です。手術は服薬と比べてリスクを伴いますので、現在の病状や予想される結果を主治医と十分相談してから受けることが大切です。 | |||||||||
8. この病気はどういう経過をたどるのですか | |||||||||
近年、新薬や脳深部刺激など新しい治療法の開発により、パーキンソン病の経過は著しく改善し、生命的には、ほぼ天寿を全うできるようになりました。薬を服用しながら就業しているひともたくさん居ます。しかし、少しずつ症状が進んでいく場合も少なくありません。薬に対する反応は患者さんごとに異なりますし、副作用のために十分な薬が服用できないこともあります。パーキンソン病自体は命にかかわる病気ではありません。しかし転倒して骨折したり、誤嚥性の肺炎を起こしたりして寝たきりになることがあります。このような合併症を起こさないように気をつけましょう。 | |||||||||
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この疾患に関する関連リンク | |||||||||
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