2013年11月2日土曜日

「人工知能」ロボットは東大に入れるか


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「人工知能」ロボットは東大に入れるか

研究が進められている人工知能(AI)。SF映画などでしばしば、AI技術を生かして開発されたロボットが人間への逆襲を図る場面が描かれている。このような状況はまだSFの域を出ない。もっとも、人間とAIの境界線はどこにあるのか-。私たちは人間との差が明確な今のうちに、利用法などのルールづくりを議論する必要があるのかもしれない。

【言葉の行間を読む】

「将来ハ、ボクモ東大ニ入リタイ」。2021年にAIを東京大学の入試に合格させようという国立情報学研究所のプロジェクトが始まった。人間の問いに正解を出すコンピューターといえば、クイズ番組で人間と対戦し、みごと勝利した米IBMの質問応答システム「ワトソン」が有名。人間が話す言葉の意味や文脈を理解して数百から数千の答えの候補をリストアップし、ひねりの効いた難問でもわずか数秒で答えを出す。
ただ、国立情報学研の人工知能プロジェクトはワトソンと違い、膨大な計算や知識データベースを使わない。少ないデータ量で人間の言葉の“行間”を読み、適切な答えを返すことを目指す。
とりあえず2016年のセンター試験で高得点を取るのが目標という。果たして東大に合格するようなレベルのAIは、人間の脳に近いということになるのか。そして人間とAIとの境界はどうなっていくのだろう。
図:人工知能の開発で進められている主な研究分野
図:人工知能の開発で進められている主な研究分野
国立情報学研究所の「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトでは、なぜ東大入試が目標なのか。新井紀子教授は「正答というルールがある上に、人間の学習に基づいて問題が設定されていて、人間並みの精度が必要になるから」と説明する。過去の問題の蓄積があり、分析もしやすい。チェスや将棋のようにテーマが単純ではないため、人工知能(AI)を総合的に判断できるからだという。

【人間とAIの境界線は】

新井教授らが目指すのはノートパソコンで動くAI。文章を理解すると同時に、質問をより深く読み込まなければならない。人間が明記していないルールを読み取る、つまり、ある文章や単語を別の意味に置き換えられる能力が必要だ。
例えば「イヌが人間の薬を飲むと死に至ることがある」という知識があったとする。飼い犬が人間の風邪薬を飲んで病気になった場合、人間はこの別々の事象を関連づけて同一だと判断できる。
しかし、AIは細かい条件を明示しなければ理解できない。このギャップを埋めるルールを作ることができれば、「開発した技術と似たような技術が過去に発明されているか」といった抽象的な検索ができるようになるという。
ではAIは人間の脳にとって代わるのか。新井教授の答えは「ノー」だ。人工知能学会会長の山口高平慶応義塾大学教授も「創造力や経験しなければ得られない知識という部分で、人間とAIの境界ができるのでは」と見る。

【動画を見せるだけで認識させる】

人間の言葉を理解し、質問に答えるIBMの「ワトソン」(機械学習システムであり、厳密には人工知能ではない=IBM提供)
人間の言葉を理解し、質問に答えるIBMの「ワトソン」(機械学習システムであり、厳密には人工知能ではない=IBM提供)
AIを計算や単純作業など面倒な仕事をサポートする「道具」として使いこなすのが理想だ。新井、山口両教授ともに「AIが発達すると、人間には心の知能指数(EQ)のような、コンピューターには不可能な能力がより重宝されるかもしれない」と指摘する。
一方で2012年6月下旬、米グーグルは事前に学習させなくても、コンピューターが自ら猫を認識できる能力を身につけられる技術を開発したと発表。通常、AIが犬や猫を判別するには、猫の特徴などを細かく学習させなければいけない。こうした先天的学習はAIの不得意な分野で、人間が勝るとされてきた。
それに対し、今回の研究は人工の神経網を利用し、猫の動画を1週間みせると猫を認識できるようになった。この仕組みを発展させれば、人間が優位とされてきた部分がAIでもできるようになる可能性もある。
AIにインターネットの活用が進めば、今よりもはるかに膨大な知識がクラウドコンピューティングでつながる。ただ、量が質を上回り、暴走の脅威も否めない。人間との差が明確な今のうちから、AIをどう利用するのか、法やルールを整備する必要がありそうだ。

掲載日:2013年6月12日
 
 

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