概説 | 血糖を下げるお薬です。糖尿病の治療に用います。 |
作用 |
- 【働き】
- 血液中の糖分「血糖」は、膵臓から分泌されるインスリン・ホルモンで調節されています。糖尿病は、このインスリンの量が不足したり働きが悪くなることで血糖値が上がってしまう病気です。そのまま放置すると、手足のしびれ(神経障害)、目の病気(網膜症)、腎臓病などいろいろな合併症を引き起こします。
このお薬は、血糖を下げる血糖降下薬です。好ましい特性として、血糖値を適時、適度に下げる点があげられます。つまり、血糖値が高いときにインスリンを分泌させ、血糖をほどよく下げるのです。適応症は、2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)です。日々の血糖値を適切に保つことは、将来起こるかもしれないさまざまな合併症の予防につながります。
- 【薬理】
- 食事をとると、インクレチン(GLP-1、GIP)という消化管ホルモンが分泌され、膵臓に対しインスリン分泌を促します。さらに、インクレチン(GLP-1)は膵臓からのグルカゴン分泌を低下させ、肝臓における糖の産生を抑制します。インクレチンはこのようにして血糖を下げるのですが、血糖依存的に作用するので、血糖値が低い場合にはインスリンの分泌を促進せず必要以上に血糖を下げません。
この薬の有効成分ビルダグリプチンは、インクレチンを分解する酵素DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ4)を選択的に阻害し、活性型インクレチン濃度を上昇させます。結果的に、鈍っているインクレチンの働きを高め、血糖依存的な血糖低下作用をもたらすことになるのです。このような薬理作用から選択的DPP-4阻害薬と呼ばれています。
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特徴 |
- 国内2番目の選択的DPP-4阻害薬です。スルホニルウレア系など従来からのインスリン分泌促進薬とは作用機序が違います。その作用は、DPP-4阻害作用にもとづき、インクレチンを介するものです。血糖コントロールが改善されますので、HbA1cの低下にもつながります。
- 単独ではやや弱いので、他の糖尿病治療薬と併用することがあります。正式に承認されているのは、スルホニルウレア系薬剤との併用療法です。
- 血糖に依存し比較的ゆるやかに作用しますので、効きすぎによる低血糖を起こしにくいです。また、食欲を増進することがなく体重増加をきたしにくいとされます。これらの特性から、新規発症者や高齢の人に向くようです。また、肥満型にくわえ日本人に多い非肥満型の糖尿病にも有用と考えられています。
- 肝障害を起こすことがあるため、定期的に肝機能検査をおこなう必要があります。もともと肝臓病のある人は慎重に用いるようにします。
- 新しい薬なので、本当に合併症を予防できるのか、長生きにつながるのかなど長期的な予後改善効果については、まだよく分かっていません。長期服用時の有効性や安全性については、今後の課題といえるでしょう。
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注意 |
【診察で】
- 持病やアレルギーのある人は医師に伝えておきましょう。
- 妊娠中や、その可能性のある人は申し出てください。
- もし、体調が悪ければ、そのことも伝えてください(発熱、食欲がない、下痢をしている・・など)
- 服用中の薬を医師に教えてください。
- 注意事項や副作用について十分説明を受けてください。とくに低血糖時の対処法については、ご家族も含めよく承知しておくことが大切です。
- 治療中に「低血糖症状」を起こした場合は、必ず医師に報告してください。
- 【注意する人】
- インスリン注射が適用となる1型糖尿病や、インスリン分泌能力が著しく低下している重い糖尿病には向きません。また、肝臓や腎臓の悪い人、あるいは高齢の人は低血糖症の発現に注意するなど慎重に用いる必要があります。とくに肝機能障害が著しい場合は、服用を控えなければなりません。
- 適さないケース..重い肝臓病、1型糖尿病、糖尿病性昏睡、ケトアシドーシス、重い外傷や感染症、手術前後など。
- 注意が必要なケース..肝臓病、腎臓病、心臓病、脳下垂体機能不全、副腎機能不全、腸閉塞の既往、腹部手術を受けたことのある人、栄養不良状態、衰弱状態、不規則な食事や食事摂取量の不足、アルコール摂取量の多い人、他の血糖降下薬を飲んでいる人、激しい筋肉運動をおこなう場合など。
- 【飲み合わせ・食べ合わせ】
- 他の血糖降下薬といっしょに飲むときは、低血糖症に注意が必要です。とくにSU薬(スルホニルウレア薬)と併用するさいは、その減量を考慮しなければなりません。よく使われるSU薬には、オイグルコン、ダオニール、グリミクロン、アマリールなどがあります。ほかにも、血糖降下作用に影響する薬がたくさんあります。使用中の薬は忘れず医師に報告しておきましょう。
- 血糖降下作用を強める薬の例..スルホニルウレア系薬やインスリン注射薬をはじめとする他の血糖降下薬、ある種の降圧薬(β遮断薬)など。
- 血糖降下作用を弱める薬の例..ステロイド薬(プレドニン等)、甲状腺ホルモン薬(チラーヂン等)など。
- 高血圧治療薬のACE阻害薬と併用した場合、ACE阻害薬による血管浮腫の副作用発現頻度が高かったとの報告があります。
- アルコールは血糖値を乱し、ときに低血糖発作を誘発します。できるだけ控えてください。飲酒を希望するのなら、医師とよく相談のうえにしましょう。
【使用にあたり】
- 症状によって、飲む量や飲み方が違います。一般的には、1日2回朝夕に1回1錠飲むようにします。食前か食後かは医師の指示通りにしてください。
- 低血糖(副作用の項参照)に注意しましょう。低血糖症状があらわれたら、すぐに甘いもの(糖分)をとるようにします。糖分としては、吸収の良い砂糖がおすすめで10~20gをとるようにしてください。外出のときにも持ち歩くようにしましょう。そのほか糖分の多いジュースなどでもかまいませんが、アメ玉は溶けるのに時間がかかるので向いていません。なお、αグルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル等)を併用している場合は、病院から渡されるステイックシュガー(ブドウ糖)をとるようにしてください。糖分をとれば15分くらいで治ってきますが、早めに医師に報告することも忘れないように。
- 万一の重い低血糖症状にそなえ、糖尿病手帳やカードを身につけているとよいでしょう。
- 低血糖には注意が必要ですが、こわがりすぎて血糖値を高いままにしておいてはいけません。
【検査】
- 血糖値やHbA1cをはじめ、必要な検査を定期的に受け、効果や副作用をチェックするようにしましょう。
- とくに肝機能検査については、まず服用前に実施し、さらに服用開始後も定期的におこなう必要があります。
- 【妊娠授乳】
- 妊娠中は飲み薬ではなく、インスリン注射薬による治療を優先します。
【食生活】
- 低血糖によるめまいやふらつきを起こすおそれがあります。車の運転や高所での危険な作業などには十分注意しましょう。
- この薬を飲みはじめても、食事療法や運動療法をきちんと続けるようにしてください。
【備考】
- 2型糖尿病では、食事療法や運動療法がとても大切です。アメリカでおこなわれた「糖尿病予防プログラム(DPP)」でも、その重要性が示されています。糖尿病の一歩手前の人(IGT)約3200人を、①プラセボ(にせ薬)を飲む人、②糖尿病治療薬のメトホルミンを飲む人、③食生活を改善する人(強化食事・運動療法)の3つのグループに分け、糖尿病の発症予防効果を比較した試験です。試験の結果、もっとも予防効果があったのは③の「食生活を改善するグループ」でした。
- 2型糖尿病や境界型の人は、まず食事療法や運動療法からはじめます。医師や栄養士とよく相談のうえ、自分に適したやりかたで日々続けることが大切です。このような基本療法だけで血糖値が十分に下がれば薬を使う必要はありません。けれど不十分な場合は、飲み薬やインスリン注射による薬物治療が必要となってきます。基本療法は、薬を飲みはじめても続けるようにしてください。
- メトホルミンは別として、飲み薬の最終的な効果(重い合併症を防げるか、長生きできるか)は、必ずしも十分確かめられていません。一方、インスリン注射薬でより厳格に血糖値をコントロールすると、目の病気(網膜症)や腎臓病などの重い合併症を減らせることが証明されています。2型糖尿病でも、医師からインスリン療法をすすめられた場合は積極的に受け入れてください。
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効能 | 2型糖尿病。ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られない場合に限る。
- 食事療法、運動療法のみ
- 食事療法、運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用
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用法 | 通常、成人は、ビルダグリプチンとして50mgを1日2回朝、夕に経口服用する。なお、患者の状態に応じて50mgを1日1回朝に服用することができる。
※用法用量は症状により異なります。医師の指示を必ずお守りください。 |
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副作用 | とくに他の血糖降下薬と併用する場合は、低血糖症の発現に十分に注意してください。低血糖とは、必要以上に血糖値が下がってしまう状態です。おおよそ血糖値が50mg/dl以下になると低血糖特有の症状があらわれてきます。ふるえ、さむけ、動悸、冷や汗、強い空腹感、力の抜けた感じ、目のちらつき、イライラ、ぼんやり、さらに重くなると、気が遠くなり、けいれんを起こしたり意識を失うこともあります。すぐに糖分を補給するようにしましょう。
ほかにも、重い肝機能障害や急性膵炎、腸閉塞、横紋筋融解症などの副作用報告があるようですが、これらの発現頻度はきわめてまれです。もし、ひどい倦怠感、強い吐き気、嘔吐、発熱、皮膚や白目が黄色くなる、激しい腹痛、腹部膨満、便秘、筋肉痛や脱力といった症状があらわれた場合は、早めに医師と連絡をとり適切な指示を受けるようにしてください。
そのほか、高血圧の薬のACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)と併用した場合、ACE阻害薬による血管浮腫の副作用が出やすくなる可能性があります。こちらもめったにない副作用ですが、併用のさいは下記のような症状をふまえ、念のため注意するようにしてください。
【重い副作用】 ..めったにないですが、初期症状等に念のため注意ください
- 低血糖..力の抜けた感じ、ふるえ、さむけ、動悸、冷や汗、強い空腹感、頭痛、不安感、吐き気、目のちらつき、イライラ、眠気、ぼんやり。さらに重くなると、異常な言動、けいれん、昏睡(意識がなくなる)。
- 肝臓の重い症状..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
- 膵炎..上腹部~背中の強い痛み、吐き気、吐く。
- 腸閉塞..激しい腹痛、吐く、ひどい便秘、お腹がふくれる。
- 横紋筋融解症..手足のしびれ・けいれん、力が入らない、筋肉痛、歩行困難、赤褐色の尿。
- 血管浮腫(ACE阻害薬と併用時)..顔や唇、舌、喉がひどく腫れる、息がしにくい。
- 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
【その他】
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